オランダ

(1ギルダー約72円)

○不思議な町、アムステルダム
 パリから、アムステルダムへ向かった。3列シートの列車は十分な空間があり、とても快適。日本よりヨーロッパの列車の方が快適に感じるのは、ゆったり感があるからかも知れない。畑や牧場の、広がりのある風景も関係している。
 途中、ブリュッセルやロッテルダム、ハーグなど通る。国際機関が多いこともあってか車内放送は数カ国語(多分4カ国語)特にベルギーは多言語国家で自分の国の言葉以外に2カ国語を話す人も多いという。だから、NATOやEU本部を設置したという話もある。
 EU統合に向けて、共通の言語として、“自国の言語以外に2カ国語”を話すことや国境を越えた学生間の交換留学など、教育プロジェクトもすすんでいるらしく、言葉だけをとればEUのブリュッセル化といえるだろう。
 列車は約4時間でアムステルダムに着いた。駅を降りて体の大きい人が多いのに驚く、オランダ人はみんなハゲてると聞いていたけどそんなことはない。
 駅の前には運河が流れ、それに沿った建物の風景は、テーマパークかちょっとした絵本の世界のようだ。路面電車がトコトコ走り、自転車が多い。
 ドイツでも見たように、町中でも(全部ではないが)歩道、車道、自転車道と区別されている。旅行者の貸し自転車も1日500円程で借りられる。この自転車や路面電車に乗れば、観光客の行きたい所はだいたい行ける。そういえば歴史上関係の深い長崎も、路面電車が町の交通の中心になっていたっけ。
 オランダは不思議なところだ。風車とチュウリップのイメージがあるかと思えば、「マリファナ」と「飾り窓」のイメージもある。これは対照的すぎるのではないか。正に明と暗。その暗を目当てに世界からそれらしき若者がやってくる。なにも“それらしき”と言う必要はない、なぜならここでは合法なのだから。
 合法でマリファナが吸える国はボクが知っているのはここだけ。こういうのって頭のコペルニクス的転換が必要。日本では絶対悪が、ここでは許されるのだから。
『カフェ』とは普通の珈琲店で『コーヒーショップ』と書かれた珈琲店は、例の品を吸えるらしい。もし珈琲だけを飲みたいとき、間違っても「コーヒーショップは何処?」と聞いてはならない。
 マリファナの値段は、高いのか安いのか分からないが、合法である以上きっと安いのだろう。
 有無を言わさず、マリファナは駄目、と決め付けている国では、人々に情報や判断を求める必要はないし悩むこともない、なぜなら駄目なものはダメなのだから。
 オランダではコカインやヘロインなどのハードなドラッグとマリファナなどのソフトドラッグを分けて考えているとのことで、ハードドラッグはキッパリ禁止されているという。一般にソフトドラッグはお酒やたばこと比べても害は少ないとのことで、それ自体に問題はないらしい。
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▼町中で見た大麻の木。

 合法に対する賛否は、数年前日本の新聞に載っていた時の記憶では五分五分で、こちらで聞いても、そのように言っていたので、世論は拮抗しているのだろう。興味、関心のある人は今すぐにでもオランダへ行ったほうがいいかも。
 以前から、合法でマリファナを吸えるオランダってどういう人・国なのだろうかと気になってしょうがなかった。マリファナ自体にそれほど興味がある訳ではなく、なぜ国の政府がマリファナを許可しているのかにだ。禁止したほうが楽で、やっかいものを禁止すれば、世界から煙たがられたりしないで済むのに、どうしてだろうと。特にEU統合に向けて、ボーダーレスが進んでいる昨今、周辺国との様々な調整の中でのこの現実は、理不尽。

○飾り窓
 東京駅のモデルになったアムステルダムの駅を降り、まっすぐにダムラーク通りが延びている。レストランやカフェ、旅行代理店などがある商店街だ。先に進むと町の中心ダム広場にでてくる。
 このダムラーク通りを駅から3分位歩いたところに、『セックス・ミュージアム』がある。何度かやりすごすうちに、足が向くのでしかたなく入ってみた。中は明るく、半分は女性。日本人を含めごったがえしている。展示に問題がないわけではなかったが、それよりもこんなロケーションにあることのほうが奇異に感じたが、日本のようなダークな感じがしない。
 さらに、もっと目立つのがレッドライトディストリクトの『飾り窓』これも駅のすぐ近くだ。ポルノ氾濫の日本、というのは事実だけど、アムスもスゴイ。沢山ある窓の向こうに、ベッドと、その横には下着姿の女性が立っている。露骨だが笑える。ボクはせいぜい4~5の窓があるだけと思っていたが、ズラーとある。それを道路側からよく見えるようにライトなどがセッテングされちゃって、ただ町を歩いているだけで、彼女たちと目と目が合ってしまうのだ。もちろん下や、上を向いて歩くことはできるが。陰湿な部屋ではなく、太陽光も入る。この光景をどう解釈すればいいのだろう。
 SEXSHOPも多く、飾り窓に負けじとPOPもドハデで、刺激的なゾーンだ。人々はどう考えているのだろうか。
 確か戦後の日本で、売春防止法制定の際、ほとんどの国会議員が法案に賛成する中、たったひとりだけ反対した議員がいたと本で読んだ記憶がある。反対の理由は(その時期の状況もあろうが)法を制定しても非合法売春が残り、女性がより危険な状態に陥るというものだったと思う。表面上、売買春を禁止してもマイナスのほうが大きいということなのだろう。
 ここの飾り窓の女性たちは合法(全てのエリアが合法という訳ではない)であるが故に、“労働者としての権利”を認められ、法も適用され、「労働組合もあり、有給休暇や失業手当てもある」と聞いたが、本当ならこれもまた日本や他の国との違いに驚かされる。
 国家にとってマリファナや売買春は、ウソでも“存在しない”社会のウラの部分。が、この国は逆を行く。どうしてだろうか。人間の“裏と表”を素直に認めているのか、人間をよく知っているのか、やっかいなことは国家が管理するのでなく、人々が考えるようわざとオープンにしているのか。
 マリファナを吸う人も売春をする人も、そうでない人も、同じ人間として見ているのだろうか。不思議な町だ。
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▼電気代を、25kwにつき1ギルダー払えば、クリーンエネルギーを供給してくれる。風車1台で500kwを発電。ここには22~26台の風車が並んでいて、これで3100軒分の電気をまかなっているという。

○ 自転車
 オランダは自転車が多い。都市部は車が多いぶん、走り辛いかもしれないが、田舎道はとても快適に走れる。その一番の原因はこの国には山がなく、坂道が少いので自転車で走り易い。
 ハクの友人、マリケンが住むザッハンの町は、アムステルダムから電車で約1時間の所にある。周りは田園風景で運河もある。沢山の水鳥や渡り鳥、ふくろうなどの鳥や、牛、馬、羊などがいてウサギなども走り回っている。針ねずみまでいた。
 遮るものが無く、風が強いこともあって、いたるところに電力用風車が立ち並ぶ。運河から太陽光発電で、牛の飲み水をくみあげたりもしていた。
 どこまでも広がっているようの思える風景に高いものといえば教会や風車、それに風力発電の風車くらいだ。そんな静かでのどかな田舎道を、こんな世界もあるんだと思いながら自転車で走った。時々、鳥を観たり、風車をながめたり、馬にエサをやったり、こういう所は、排気ガスの出ない自転車が似合うし、実際に走り易い。信号や道路上の障害物もほとんどない。
 オランダを海から遮っている防波堤にも行ってみた。一般的な防波堤のイメージではなく、幅数十メートルもあるような立派なものだ。国土の四分の一が海より下にあるのだから、これの果たす役割は大きい。
 

○戦争の記憶 
 この辺りは、別荘地でもあり、休暇を過ごす外国人も多い。特にドイツ人の姿が目立つ。
 マリケンのおばあさんがマリケンに
「今ここに来ているドイツ人は、一見のんびりしているように見えるけど、この後、ドイツ軍が来るにちがいないので油断してはならないよ」
 彼女がどういう経験をしたかは知らないが、これを聞いて、人の記憶や過去の傷は容易には消し難いことを、あらためて思い知らされる。
 アンネ・フランクが1942年7月から1944年8月にゲシュタポに捕まるまで暮らしたアムステルダムの隠れ家に行ってみた。
 部屋への入り口は本棚の背後にあり、それをどけると階段が続く。それが推理小説ではなく、現実のものだと思うと緊張感がある。彼女は1945年ドイツのベルゲン・ベルゼン強制収容所で殺されたけれど、隠れ家は保存され、今ではナチズムの迫害と人種差別のおろかさを伝える平和の象徴になっていた。(※1)
 ドイツと言えば、戦後、戦争の反省、ナチへの追及をずっと続けてきた国と、ボクは思うのだが、観光に来ているドイツ人を見ただけで、次に軍隊が来ると思う人もいる。そのドイツは、けん引役の一国としてEU統合に進もうとしている。言葉や文化もそうだが“歴史においても相互理解”をしていかねばならないはず、今後が楽しみ。日本も早く、国境を超えた歴史教科書作りに着手して欲しいもの。

 ロンドンまでの安い行き方を聞こうと一軒の旅行代理店に入った。驚くことに、飛行機とバスの値段はほとんど変わらない。飛行機だとロンドンまで1時間もかからないという。それではと、飛行機で行くことにした。約6300円だった。
 以前からロンドン、アテネ、アムステルダムは安い航空券があることで知られていたが、本当に安い。ためしにメキシコシティーまでの値段を聞いてみると、条件付きで、ルフトハンザが、往復一人約5万円であるという、やはり安い。結局、空港使用税を入れて約8000円でロンドンへ飛んだ。
 飛行機での国境越えは陸路のそれとは異なり、どこかそっけない、身体で感じる距離感がないからだろうか。
 そうはいえ、今では飛行機も使うようになってきた。でも、もし聞かれるなら「バスのほういい」と答えると思う。
 有機農業を営む農家を訪ねたり、シュタイナー作業所(※2)を訪ねたりした後、ロンドンに向かった。
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▼デメター認定の農家 左は加温しないハウスで、降った雨はパイプを通って、右のタンクに貯水する。
 
※1 ボクは長崎に10年暮らしていて、その時に被爆者や強制連行されて被爆した朝鮮人の人から話を聞いたことがある。長崎の平和の象徴といえば、平和公園の像をイメージする人が多いと思う。でもそこは、元々刑務所があり、いまでも周りには厚いコンクリがのこっている。そこでは無実の中国人少なくとも三三人が亡くなっていて、像があるところは、死刑台の在った所だそうだ。しかも像を建てた、名誉都民の北村西望氏は戦争中は軍神像を建て、戦争を盛り上げた人だという。これで平和の象徴といえるのだろうか。さらに、よくTV等でみるきのこ雲はいつも上から見たものだが、その雲の下では様々な人間の悲劇が展開され、そして最後まで片付けられずに放置されていた遺体は朝鮮人だったという。

※2 シュタイナー作業所
 友達が使っている、ぽってりした型の湯飲み茶碗がなかなかいい。「どこで買ったの」ときくと、「近くの作業所で、作って売ってるわよ」という。さっそくその日の午後、見学に行った。
 わりと大きな町の商店街の一角にある、工房兼ショップ。シュタイナー主義の作業所で、知的障害のある大人8人とヘルパー2人、プラスボス(その日は休み)がいる。何人かは、町から少し離れた共同体から通ってきているという。友達が「日本からきたお客さんが、話しを聞きたいと言ってるんだけどいい?」と話しかけると、一人の女性がいろいろ説明してくれる。正確に伝えようと、ちょっと緊張しているようだ。
 ここは、6年前からやっていて、一週間かけてすべて手作りで陶器をつくり、作品は、店で販売している。湯飲みからキャンドルホルダー、花瓶までいろいろある。年に3回は国内のエキシビションに出展するが、他の所に卸すほど沢山はできないという。灰色や青の色が、渋く落ちついたかんじで、型も手でつくったのがよくわかる、だからといって嫌味がない、愛着がでそうな器が沢山ある。

 釉薬のことや、作業所の運営など聞いてみたが、彼女を長く考えこませてしまうのでやめた。『ろばや』で扱っていた、陶器を作っているイギリスのシュタイナー共同体「キャンプヒル」の名前は知っているといっていた。どっしりした、石をくりぬいたようなキャンドルホルダーを買って、友達にプレゼントしたら、その日の夜から食卓に登場。気に入っているようだった。(byハク)