スリランカの紅茶の産地は、低地のルフヌ、中間のキャンディ、高地のウヴァ、ディンブラ、ヌワラエリヤなどかなり広い。なかでもよいお茶ができるのは、高地。そこでヌワラエリヤへ、紅茶園を見に行った。
▼上・とってきた茶葉をひろげて乾燥
仏陀の歯がおさめられている仏歯寺とペラヘラ祭りで有名な古都キャンディから、列車に乗ると、まもなく山や谷の斜面が、見渡す限りの茶畑になる。山また山のその向こうにも茶畑。その緑の畑をぬって、岩の上を滝のように水が流れ落ちる。ところどころに見え隠れする、色とりどりのサリーをまとったた茶つみの女性達。紅茶園~TEA
ESTATE~には、働く人達の集合住宅や工場なども見える。ヌワラエリアは、かつて統治者だったイギリス人が避暑地として作った町とかで、石作りの建物や石垣、緑の濃い街路樹の通り等がなんとなく、イギリスの田舎の村みたい。
この町からバスで30分位の、LABOKELEEという紅茶園に行く。観光コースがあるようで、行くとまずここのお茶をだしてくれる。水色(すいしょく)がうすく、オレンジ色に近い。味も軽くてストレートで飲むのにぴったり。スリランカのお茶はトーマス・リプトンがインドからお茶の木を持ってきて、作らせはじめたときいたが、なるほどリプトンの味といえば、このお茶のイメージがわく。10人位お客さんが集まったところで、工場見学へ。
工場といっても簡単なプレハブの小屋のようなところ。お茶の葉は新芽とその下に2枚の葉がついた、一芯二葉の部分をつむ。季節により10~20時間ほど広げて乾燥させ水分をとばす。ローリングマシーンで葉を丸め、大中小に選別する。その後床の上に広げて45分~2時間ほど発酵させる。この時の適温は18度だそうだ。最初は緑色だった茶葉が、この工程で茶色に変化する。再度96度の釜で21分乾燥させ、冷やし、後はグレーディングだ。
スリランカでは、葉の大きい順にOP(Orange Peko), BOP(Broken OP), BOPF(BOPFannings),
DUSTの4段階がある。オークションを経て売りに出されるが、一番高値のOPは輸出用で、国内にでまわることはほとんどないときいた。ここヌワラエリアは一年を通じて平均気温が18度で、霧がよく発生するなどよいお茶が育つ条件がととのっている。又、気温の変化がほとんどないため一年中茶摘みができ、一ヶ月サイクルでもとの場所に戻ってくるそうだ。茶の木は植えて3年で使えるようになり、一本の木は50年位は持つ。5年に一回は機械で上を刈り取り、手入れする。
外にでて茶畑で働く女性達に声をかけてみた。彼女達はスリランカ政府と対立しているタミール人らしく、多数派のシンハリ人とは明かに顔つきや体格が違う。ここの紅茶園で売っているお土産用のパッケージを見たことがないらしく、集まってきては珍しそうに眺めている。彼女達の表情がとても暗かったのは気にかかる。
▼紅茶園とティーファクトリー
●スリランカで紅茶三味
食堂でも宿でも、POT TEA を頼むと、50~70円位。ど~んと大きいポットに濃い紅茶、温ためられたたっぷりのミルクが、シュガーポットとカップとともに運ばれてくる。2人で飲んでも3杯づつはある。時には紅茶を薄めるためのお湯までくれるので、お茶だけでお腹が、ガボガボになってしまう。
イメージのセイロンティー(軽くて飲みやすい)とは違い、香りもあまりないし、ミルクティー用だからか色も濃い。ポットに茶葉が入っていることは少なく、大抵はある程度までだしたものをポットに移しかえて持ってきてくれるので、渋みは少ないし、最後まで安定した味で飲める。たっぷりのお茶を好きなだけ飲めるのは、お茶飲みにとってはうれしい。なかでも、コロンボで泊まっていた宿『オッテリーツーリストイン』の朝食で飲む紅茶は、雰囲気があって一番好きだった。
この宿は海岸からちょっと入った静かな住宅街にあり、70年位前に建てられた洋館風の家をそのまま使って宿にしている。部屋が多いわりにいつもしーんとしていて、人の気配が少ない。天井の高い古い家具に囲まれたダイニングルームでの朝食は、トーストと卵とフルーツとお茶と決まっているのだが、じつに優雅な気持ちになれる。ゆっくり食べ、好きなだけお茶を飲む、毎朝の朝食がとても楽しみだった。
スリランカの軽食で、『SHORT EATS』というものがある。食堂でお茶を頼み『SHORT
EATS』と頼むと、中に卵が入ったコロッケ、春巻のようなもの、ハンバーガーのようなパン、揚げパンなどが皿に盛られてどっとでてくる。甘いお菓子のみのバージョンもある。好きなものを食べて、食べた分だけお金を払うシステム。ひとつ、ふたつ食べると、結構満足する。お昼やおやつによく利用した。ただし周りの人を見ると、みな食べる前に指でつっついたり、温かいかどうかあれこれ触ったりしているのが、気になる。あれが次の人にまわってきているわけか……。
▼ダージリンの町と紅茶畑
ダージリンへは、麓のスィグリという町から山また山の道を、ミニバスで4~5時間かけて登っていく。途中で運がよければ車より遅い小さな蒸気機関車、トイトレインを見ることができる。下のほうから登っていくにつれ、山の斜面はお茶畑が多くなる。スリランカの畑と比べると傾斜がきついせいか、規模が小さいようだ。
ダージリンの町は、ここもイギリス人が避暑用に開拓したとかで、インドの他の町とは雰囲気が違う。それに加え亡命チベット人やネパール人などいろんな人がいるのも違う。坂だらけの町の正面には世界で3番目に高い山カンチェンジュンガが、ど~んとそびえている、観光地でもある。
町から一番近いHAPPY VALLEY TEA ESTATEに行ってみる。1864年の設立で広さは105ヘクタール。工場で働いていた人が中を案内してくれる。
ダージリンのお茶園で働く人達は、女性も男性も明るいかんじで、実際の生活はわからないが、スリランカの暗い表情の人をみたあとだけに、ちょっと救われた思い。生産工程はほとんどスリランカと同じようだが、グレーディングが違うようだ。もう少し詳しく聞きたいと思っていたらテイステイングをしていたオーナーと出会う。いろいろ聞くと丁寧に教えてくれる。
ダージリンの茶摘みの季節は3月~11月まで。2ヶ月ごとに区切り、ファーストフラッシュ、セカンドフラッシュ、サマー、オータムナルとわけている。このうち6月頃のセカンドフラッシュが価格、味ともに最高なんだという。
ダージリンティーの等級は、7段階。上から順に、SFTGFOP, FTGFOP, TGFOP, BOPS, BOP1, BOPF, DUSTだ。上の三つまでは葉をカットしていない、よりの大きな葉のタイプ、下の4つはスリランカと同じ、細い葉のものだ。
農薬は害虫駆除剤などを使うが、抜きうちで残留検査があるため、けっして過剰使用はしない。有機栽培のお茶もあるらしい。お茶は気候(温度、湿度)、地形、地質によって味が異なり、よいお茶をつくるためには細い配慮が必要だという。できたお茶をブレンドすることはなく、それは各紅茶会社が年間を通して一定の味を作りだすためにやること。お茶は、おなじ茶園内でも畑ごとに、季節ごとに味が違い、それが各茶園の特徴となる。お茶も農産物なのだから、当たり前だ。
私がいろいろ聞くからか、「うちに来てお茶を飲んでいかない?」と誘われ、喜んでおじゃまする。コテージ風の家は鹿の剥製等があってちょっと趣味が悪いが、頂いたお茶は素晴らしいのひとこと。「自分で飲む用だから上から3番目のやつだよ」というが、今まで飲んでいたダージリンティーって何?というぐらい違う。香りのよいこと、オレンジ色のきれいなこと、軽やかで、渋みがまったくない上品な味。水が違うから?空気が違うから?いまだに忘れられないお茶の味だった。
●ダージリンにはティーバッグがない?
ダージリンの町で、紅茶を頼むとPOT TEAでくる。大きめのポットに、温められたミルクと砂糖のセットで7~8ルピー(40円位)位。もちろん二人で飲んで2杯以上はある。外にはカンチェンジュンガがそびえ、紅茶とチベット人のつくるモモやチベタンブレッドを食べていると、なんだか自分がどこにいるのかわからない気分。
おいしい紅茶をこの先の旅行中も飲みたいと、ティーバッグを探した。けれど紅茶専門店はもちろん、食料品店でも「ダージリンにはティーバッグはないよ」と言われた。この町の人は紅茶の味をしっているから、ティーバッグはないのかなと、それはそれで納得した。高級な茶葉でなくても、ポットで時間をかけて入れればおいしく飲める。それにダージリンは紅茶の生産量からいけば、余り多くはない。それをティーバッグにしてしまうのは勿体ないと思った。
ところが、最近日本でダージリン茶のティーバッグを、よく見るようになった。それも表示をみると、けっこういいグレードのものを使っている。ダージリンという高級なイメージのあるお茶をティーバッグにすると、それなりに高く売れるし、簡便で忙しい生活にはあっているのだろうが、やっぱり納得いかない。ダージリンティーを飲むときくらい、大きな葉っぱをゆっくり開かせるまでの5分を、待つゆとりが欲しい。
南インドには、チャイがない。「チャイ」と頼むと、「ティー?」と確認されるぐらい、あまりポピュラーな飲みものではない。で、人々は何を飲んでいるのかというとコーヒー。これは意外だった。ミルクコーヒーが、深い受け皿の上の、小さなカップになみなみ運ばれてくる。すぐに飲んではいけない。まずコーヒーをソーサーにあけ、次に30cm位上からカップに注ぐ、という動作を2~3回繰り返し、砂糖がよくまざり、飲み頃に冷ましてから飲む。甘いけど、なかなかおいしい。これに南インドのスナック、ドーサというパンケーキや、ウタパムというお好み焼きのようなもの、イドゥリという蒸しパンなどがよくあう。
▼上はバナナの葉に盛られた南インドの昼定食。
インドもカルカッタに近づくにつれ、チャイの国になる。道ばたでも、駅でもどこでもチャイはある。よく煮込まれたチャイは、紅茶の味なんかまったくしなかったり、スパイスがきいていて美味しかったり、甘すぎたり、その時々によって味が違うけれど、チャイを飲んでほっと一息という、そのかんじが好きだ。もっとも私は沢山の量を飲まないと飲んだ気にならないので、小さなグラスのチャイはちょっと少なすぎる。それでビッググラスチャイを頼んだり、2杯頼んだりしてしまうが、インドの人は小さなグラスのチャイを大事そうに、時間をかけて飲んでいる。暑い時に熱いチャイを飲んで一休み、インドを旅するときは、地元の人と同じがいいみたい。
中国では人々が、どこでも、いつでもお茶を飲んでいる。大きな蓋つきのホーローのマグカップや、蓋がしっかりしまる瓶などを持ち歩き、職場で、列車の中で、時には歩きながらもお茶を飲む。列車の中ではボイラーでお湯を沸かしていて、備えつけの魔法瓶(大きいアルミのボディに中はガラスでコルクの栓のやつ)で汲みにいく。宿にも当然魔法瓶とカップとお茶の葉のセットは用意されていて、いつでもお茶が飲める。
中でも気に入ったのは茶館。とくに四川省の成都には沢山の茶館がある。入り口で好みのお茶を選んでお金を払い(一人一元、25円位1991年当時)茶葉の入った蓋付きの湯飲み茶碗を受け取る。好きな席に座って、茶碗の蓋をあけておくと、大きなやかんを持った人がやってきて、見事な手つきで熱湯を注いでくれる。蓋をして少し蒸らし、ゆっくりお茶を飲む。このとき蓋をあけてしまわずに、ちょっとだけずらし、蓋で茶葉をよけながらすするのが、当地流らしい。
まわりを見ると、お年寄りが多いが、新聞を読む人、麻雀をする人、持参の鳥籠をおいて楽しむ人、それぞれ好きなように時間を過ごしている。お茶がなくなったら、蓋をあけておくと、やかんの人がやってきて何回でも注いでくれる。中国茶は何杯でも飲めるので、一度座ったら最後、相当ねばれる。
気持ちのいい外の席で、ジャスミンティーを飲みながら、手紙を書いたり、本を読んだり。旅行者にとっても有難い茶館。経済中心の世の中では、こんなのんびりした場所はできないだろう。中国でも庶民的な茶館は、だんだん少なくなっていくのかなと思うとちょっと寂しい。
マレーシアのペナンにいた時、同じ宿にいた旅行者から、近くにある飲茶屋がおいしいと聞いた。さっそくその日の午後行ってみると、店先にせいろが積んであるものの、お客さんは誰もいない。聞いてみると「お昼で終り」という。山のようなせいろは全部空だったのだ。これはすごいかもと、次の日朝9時ごろ行ってみた。
▼後ろに積んであるせいろの数を見て。
お店の前には、すでに空いたせいろが積み上げられている。間口は狭いものの奥行きのある店内は、けっこうお客さんが入っている。席に座り、お茶を頼むと中国製の陶器のポットに入ったお茶が運ばれてくる。そうこうするうちに、せいろを抱えた店員がまわってくる。まずは小さな包子としゅうまいを貰う。
また違う店員がまわってくる。一皿もらう。食べ終わらないうちに、また次の店員が……。種類はあまり多くなく、とりたてて珍しいものがあるわけではないが、このどんどん持ってきて、テーブルの間をまわるというスタイルが気に入った。最近は一品ずつメニューを見ながら注文するというのが主流だが、やっぱりこんなふうにどんどん持ってきて見せるというのが、本来の姿なんだろう。
この店は朝6時前からやっていて、朝食のための飲茶なのだというのが発見だった。飲茶というとお昼からおやつというかんじだが、朝からきてお茶を飲んで、しっかり食べるための飲茶も庶民的でいい。もちろん値段も安いし、お茶も飲みたいだけ飲める。こんな飲茶は、ペナン以外でみつけたことがない。