イギリス

(1ポンド約230円)

○ロンドンの宿

 アムステルダムからの飛行機はロンドンシティーエアポートという聞き慣れない空港に着いた。この空港は、出発10分前でも搭乗可能で、リムジンバスは10分間隔で走っている。スピードが売り物で、ビジネスマンの利用をねらっているという。そのせいか、悪名高いイミグレもさっさと通過できた。
 宿は、旅行の途中に旅行者から聞いていた地下鉄ノーザンラインのストックウエル駅から10数分歩いた所にある『ユーロ・タワー』へ行く。12階建のビルの4階から上が宿泊施設になっていて、ハイシーズンでツインの部屋、1週間160ポンド、ロウシーズンだと120ポンド、ドミトリーだとひとり40ポンド(1週間)という安さ、もちろん1日料金もある 。
 部屋には鉄パイプで作られた、2段ベッドが2つ、狭い場所いっぱいに設置され、ドミトリーだと4人が寝て、ツインだと同じ部屋を2人で使う。部屋は汚く、寒く暖房もない。ライトが暗いので、ワット数が高い電球を買ってきた。ベッドの中央部はへっこみ、しかも汚い。褒めるところのない部屋。シャワー・トイレは共同。それと驚く程貧相な朝食付きだ。惨めな気分を味わいたくなければ食べないほうがいいかもしれない。ボクは毎日食べたが。
 パリやロンドンだと存分にバジェット旅行気分を味わえる。アジアを旅行していると「お金がない」を口癖のように言う旅行者がいる。が、それでも宿の選択が多少可能だろう。でも、ここだと選択の巾がとても狭まる。この時期、安いユースホステルでも、1人たぶん16~20ポンドくらいしてしまう。その位までは考えるが、それ以上は現実的ではない。選択肢は少ないのである。

 

○日本食品店 

 日本人が多いロンドンには日本の本屋、古本屋があり助かる。長期の旅行者はよく本を交換するが、なぜかヨーロッパを旅行している人は本をもっていない。途中何人かの日本人に声をかけたけれど収穫は1冊。たぶん、こういう本屋があるせいかもしれない。早速イギリスのガイドブックを買う。
 ロンドンの中心部、ピカデリーサーカスから歩いて2~3分のところにジャパンセ ンターがある。本屋や旅行代理店、両替所などがあり、地下には『ナチュラルハウス』という日本の食品店がある。あるガイドブックには、自然食品店だと書いてあったので、旅行に行く前からチェックして楽しみにしていた。外の案内にも自然食品と書かれていたが、実態は、ただの日本食料品店でガッカリ。
 旅行中訪ねた自然食品店は、どこもおおむね日本食品は充実していて、玄米、みそ、しょうゆ、豆腐、のり、わかめ等はないところがない。梅肉エキスや葛まであったのには驚いた。
 もし食べ物に困ったら自然食品店に行けばなんとかなる。が残念なことに日本の食品店にはまともな自然食品はない。ロンドンに住む利用者の需要がないのかも知れない。
 考えてみると面白い現象だ。というのは、ロンドンで自然食品店を利用している人は本来の醤油、みその味を味わえるが、日本食品店を利用するとそれが味わえないのだから。
 “ごまかし”の醤油、みそ、などは材料として、丸大豆ではなく、抽出剤を使って油分を取り除いた脱脂加工大豆を使ったり、本来1~2年かけ(天然醸造)て熟成させるところを、2ケ月から半年位で出荷するため、味や香が落ちる。それを補うために、化学調味料を加えなければならなくなる。メーカーだって、値段を下げるため材料を安く、醸造期間を短くせねばならないジレンマがあるが。
 ヨーロッパの自然食品店での、日本食(マクロビオティック食品という認識かもしれない)の評価は高いように思える、そうした評価を逆手にとってこんな名前をお店に付けたのだろうと勘ぐりたくなる。恥ずかしい店名と思う。
 ピカデリーサーカスを少し南に行くとバッキンガム宮殿やウエストミンスター寺院やテムズ川に沿って建つ国会議事堂などがあり、毎日、どんよりした雲の下を、わけもなくさまよった。
 朝、寒いユーロタワーを抜け出し、地下鉄とバスの1日券を買って、博物館や美術館を見て、お腹がすくと、ベジタリアンレストランや、教会の地下食堂に行った。特にトラファルガー広場に面して建つ教会の地下食堂は、雰囲気がよく、野菜料理もあり、しかも安く、何回も通った。
 ショッピング街のオックスフォードストリートを歩いていると、セルフリッジデパートの入り口付近で回転寿司を見つけた。安い皿でさえ約300円もする。手がでない。他のギャラリー同様、回る皿をしばらく目で追っていた。

 

○スコットランド

 エジンバラへはロンドンから列車で約4時間。イギリスは列車の値段が高いが、いろんな割引がある。どういう種類のサービスがあるかは、駅でパンフレットをもらえる。たとえば往復チケットが周遊券の様に使えたり、混雑する金曜日には使えない分、安くなったり、帰りを指定した安いチケットなどいろいろある。けど分かりにくい。
 エジンバラの宿はドミトリーに入った。ひとり2300円。自炊が可能なので選んだのだが、高校生くらいの若い旅行者が多く、本格的にうるさかった。今思い出しても腹が立つ。
 この町はニュータウンとオールドタウンに分かれていて、オールドタウンには、エジンバラ城やそのふもとに広がる公園や古い 建物が連なり、落ち着いた重厚な町並みで、小道や坂も多く、歩くのが楽しい。
 観光を終え、夕方になると、スーパーに行き夕食の買物。カット野菜や冷凍品野菜、レトルト米が多くなる。他にパン、マーガリン、ジャム、調味料なども買う。使いきらないものは、置いて行くこともあるし、置いていってもらった物を使うこともある。
 郊外へは観光バスに乗った。ローホ・ローモンド湖などのどかな風景が広がり、スターリング城では旧日本軍の英国人捕虜への扱いなどの展示もあり、タイ・カンチャナプリからのびる泰面鉄道のことなどを思い出した。
 このスコットランドはやたらナショナリズムを強調する。それがあまり極端なので可笑しくもあったが、笑ってはならない歴史がありそうだ。それに議会も近々はじまるらしい。

 

○スコットランド通貨

 イギリスの旗は、イングランド(ウエールズは併合)+スコットランド+北アイルランドそれぞれの旗の合作と、ロンドンの古本屋で買った本にでている。だからスコットランドに来て、うわさに聞いていた通貨をみると、国というもののとらえ方を変えなければならなくなる。 
 スコットランドにはイングランドとは異なる通貨がある。実際にスコットランド銀行発行の通貨を見ると、ここは一つの国だ。イギリスには他にイングランド銀行、北アイルランド銀行(アイルランド銀行かも知れない。北アイルランドの通貨はボクは見ることが出来なかった)がある。これはチョット複雑。

 銀行とて、日本で銀行の銀行といわれる日本銀行に当たるはずの、イギリス銀行とでも言うか、バンクオブUKとかGBがなく、イギリス通貨もない。その変わり、それぞれの地域で通貨を出している。もちろん、国が異なると考えれば、ごく自然なことなのだが。旗と同様に合作にすればいいのかも知れないが、イギリスに3通貨あることの方が、それはそれでオモシロイ。
 只、スコットランド通貨を両替できない国があったり、北アイルランド通貨を認めていない(直接確認はしていないが、イングランドとかアイルランドなど)国があるとかの話を聞くと、少しややこしくなるのだが。

○湖水地方

 エジンバラから列車で湖水地方の中心ウインダミアまで約3時間。日本人の観光客に人気が高いところ。
 1泊目はイギリスに来て初めてB&Bに泊った。ツーリストインフォメーションで「一番安いB&Bをお願いします」と言ってしまったが故に、それなりの部屋だった。ベッドも朝食も平凡過ぎた。やはり、ひとり約3000円ではダメか。
 2泊目からはホークスヘッドのYHへ移動、ウインダミアからバスで約1時間の所にある。ここはいいところで、庭には広々とした芝生とその向こうには落ち着いた湖。古い洋館の建物は天井も高く、それに人がほとんどいないのでとても静か。このまま、沈没してしまいそう。ひとり約2300円で、自炊ができる。
 エジンバラから自炊が続いていて、ここ1週間ほどカレーばかり。レトルト米と冷凍カレーのセットで、これがてっとり早くて安いからだが、他に野菜炒めやスープもつくる。飽きてはくる。それでも高いお金を出してまで、胡麻をすっても美味しいとはいえないイギリスの食事よりはましと、納得しながら食べている。こういう時、アジアの屋台がなつかしい。
 YHでの生活は、朝、買ってきたパンと紅茶、またはインスタントコーヒーを飲み、お昼用にサンドイッチを作る。サンドイッチの中身はだいたい、ハム・チーズ・チョコレートクリーム。それと水、ジュースを持って、ウオーキングトレイルを歩く。どこまでも広がる景色を堪能し、羊や牛とともにお昼を食べ、また歩く。
 帰る途中、村の食品店に寄って夕食用の買い物をして、5時位にYHに帰る。それから、紅茶かコーヒーを入れ外のベンチに座る。遠くで鳴く、どこかかなしげなひつじの声や鳥のさえずりを聞きながら紅茶を2~3杯飲む。
 7時を過ぎた頃からおもむろにキッチンに入り、レトルトカレーをあたため、野菜を茹でたり炒めたりする。時にはうどんや焼きそばを添えることもある。いも類は外でいつでも食べることが出来るので、素材としては使わない。夕食が終わると、旅行者と話をしたり日記をつけたりして10~11時頃寝る。時々ベットの中で、こんなことしていていいのか?と思ったりもする。

○ ナショナルトラスト

 ここ湖水地方の土地はナショナルトラスト運動が所有しているものも多い。それを200万人以上の会員が支えているという。そのおかげもあって、この自然や景観を楽しめる。
 YHを拠点に毎日ハイキングに行っているが、ナショナルトラストも道路の案内板や解説、マップなどを作ったりしている。

 ハイキングというとのどかな尾根や木々の中を歩くと思いがちだが、ここは牧場の中を歩くことが多い。
 最初、マップを持って出かけた際、案内が牧場のゲートの中に続き、その向こうには、沢山の牛たちが思い思いの姿勢でこちらの様子をうかがっていた。こちらも牛の出方を見ていたけれど、いつまで見つめあっていてもしかたがないので、ここは一歩引いて相手を尊重し遠回りした。実をいうと、ほとんど牛に接した経験がなく、スペインで闘牛を見た身の上では、こころなしか不安があった。
 ところが次の所に行っても事態は同じで、結局こういう場所を旅行者に楽しんでもらおうと、わざわざ中に道を通しているとわかるまで、何かの間違いかもしれないと思ったりした。こうしたウオーキングトレイルを何度も通過しているとさすがに慣れるもので、牛も羊も風景の一部、一層のどかさが増してくる。

 牛はおとなしい動物で、こちらに突進してはこなかった。闘牛用として育てられた牛すら、闘牛士に向かっていかないことがよくある。特に、マタドールが牛に背中を向けると、牛は相手に向かっていかない。牛の性格を知ってのパフォーマンスだったのだろう。
 牧場の中を歩くのは気持ちいい。手放さねばならなくなった牧場を、ナショナルトラストが買い上げ、牧畜農家に貸し、牧場を保存。昔からの湖水地方の景観を維持しているという。努力あっての景色といえる。
 また、ナショナルトラストは自家用車での観光を減らそうと、無料のミニバスも運行していて、たびたび乗せてもらった。人気はないようで計3回の利用で、結局貸しきり状態。思うようにはすすんでいないようだ。ボクらにとっては有り難かったが。
 野原歩きは、とても気に入った。荒々しい山歩きもいいがこうした歩きものどかでいい。このウオーキングトレイルが、イギリスのいたるところを走っていて、スコットランドには160kmも続くトレイルがあるという。
 毎日歩き回った中で、特に気に入ったのはターンホウズ。ホークスヘッドから歩いて1時間チョットで行ける。車でも行けるので人も多いが、それでも静かだ。紅葉になりかけた広葉樹を映す湖面などを見ていると、なかなか味わえない安らぎを感じる。
 こうした場所が静かな理由のひとつは、自然があるからというだけではなく、人々が静かにしようと自覚していることにもあるようだ。自然と静けさを維持するために、この辺りには「食べ物屋、土産物屋などは出店禁止です」とナショナルトラストの係員はいう。もちろん演歌が流れていたりカラオケもない。ありがちなボートもない。あるのは湖と木々、そしておいしい空気。それで充分なのだろうが、こんな考えは日本だけでなくアジアでははたぶん受け入れにくい。特に中国ではありえない。
 観光開発とは“自然を保全”することか“レジャー施設やお土産物屋をつくること”か。人間を中心に考えるか、経済第一かの違いがあるように思う。でもその背後には、人々がやすらぎに、何を求めるかとも関係している。桜の下でカラオケで歌いたい人間をどうするか、これが問題だろう。
 ピーターラビットの作者ビアトリクス・ポターの家や詩人ワーズワースが暮らしていたダブ・コテージなど(共にナショナルトラストが保存している)を見学した後 レイクディストリクトをはなれた。


 

 

 

 

 

○ダブリン

 ウインダミアからダブリンに向け出発した。列車を3つ乗り換え、ウエールズのホリーヘッドへ。クリューからダブリンまでの列車・フェリーの往復チケットは約4600円で、おもしろいことに、帰りを指定した往復切符は片道切符と同じ値段だった。
 ホーリーヘッドの港から世界で一番速いという高速フェリー(40ノット、1500人、車350台)でアイルランドのダンロウヘイア港に着いた。1時間半の船旅だ。フェリーから海を眺めているとその早さが実感できる。海を走っているという言葉がピッタリ。港から電車で約10分でダブリン到着。
 宿は3軒探して、ダブリン国際YHのドミに入った。一泊約2200円。
 最近、アイルランドは観光客が激増しているらしく、9月も終りだというのにYHなども旅行者でいっぱいだ。街も活気があるように見えた。
 知り合いのユミコさんに連絡。ダブリンの図書館で無給で働いている殊勝な人だ。仕事は楽しく、やりがいがあると言っていた。
 夏休みを利用して“ボランティア”に来ている学生にも何人か会ったが、気楽に“海外を体験”しながら仕事を楽しんでいると言った感じだった。ボランティアにも相当に巾があるようだ。ユミコさんとアイリシュパブに行きギネスを飲んだ。「うまい」

「今日はいっぱいだから泊まれません」朝になって急に言われた。チェックインの時は
「空きがあるからそれ以降の予約は朝で大丈夫」と言っていたのに。ないのなら始めから予約しておくのに、冷たい。腹がたって「あなたはフレンドリーじゃない」と言ってしまった。また朝から宿さがし、でもどこも満室。どうもサッカーのアイルランドリーグの決勝戦があるらしい。これはダメだと思い急遽、ゴールウェイに向かった。

 

○ ゴールウェイ

 バスで約3時間半(往復で約2100円)でゴールウェイへ着いた。カキシーズンの到来を告げるおまつりが開かれていた。パブはもちろんだがエスニックのお店がやけに多い。ダブリンもそうだったが、お店や民家の戸口や外壁の色あいがあでやかだ。
 この町から少しだけ南へ行くと、石の野原のような、見慣れない光景が広がる。大きな平たい岩のすき間に水が入りそれが氷になり、岩を砕いて石の風景ができたという。
 モハー(moher)という垂直に切り立った崖は印象に残った。高さは150m位あるだろうか。台形状の大地が波と風で凹凸に削り取られ、それが何キロか続いている。削り取られた側面には幾曹もの硬そうな地層がはっきりと見え、どこか身を削りながら島を守っている感じだ。ここの崖には日本なら安全対策上付けるであろう手すりなどはない。「崖っぷちに立たされる」という言葉があるが、とても立てない。垂直に落ちる大地の端から、腹ばいになって下を覗くと、岩にぶつかる白い波がスローモーションのように見える。そんななかでも海鳥が悠々と飛んでいて、自由を謳歌してるみたいだ。いままでここで一体何人の人があの白い波に向かっていったのだろうかと、ふと考えた。
 ダブリンに戻り、前回のことがあったので、別のYHに電話をすると予約にはどうしても、クレジットカードが必要という。国際YHカードではダメらしい。一体どうなっているのかこの国は。入ったYHの建物の中は監視カメラのあらし。泊まり客が食べたり休んだりする休憩室にまで設置していたのには頭に来た。セキュリティのためとは分かるが、そんなに治安が悪いのだろうか。ここまで見るということはこの宿の人権感覚は鈍いとみた。
 観光客が多くなったせいか、それとも運が悪かったのか泊まったYHのいずれも愛想が悪かった。パブもスペインのバールの方がボクには合っている。アイルランドはフレンドリーな人が多いと聞いていただけに意外だった。人々の歩き方は早く、ぜんぜんゆったりしていない。多分、田舎にいけば感じ方もかわるだろうと思うことにして、そそくさとアイルランドを去った。ただお年寄りの印象はよかった。道路でキョロキョロとしているだけで「迷っているのか」「何処へ行きたいか」と親切に言ってくれた。ヨーロッパでは聞いてもいないのに道を教えてくれるなんてめったにない、ベルリン以来だった。
 1週間と短い滞在で再びロンドンへ向かった。

 

 

 

 

 

○ニコッ 

 ダブリンから、再び高速フェリーでウエールズのホーリーヘッドへ。そして列車でロンドンへ。この途中、ウエールズのバンゴールでメナイ橋を列車で渡る。
 列車の中で通路を隔てた隣席に、女性が座っていた。今度は別の駅で乗客が乗ってきて、彼女の隣に座った。この二人、最初はあいさつ程度だったのが、数分後には、旧知の仲といった感じに。何かの本に「日本人はなかなか本題に入らないが、イギリス人は5分で本題に入る」と書いてあったのを思い出した。この二人はロンドンに着いても一緒にホームを歩いていたからもう友だちなのだろう。
 知らない人とこんなに早く親しくなれるのはどうしてだろう。旅行中、欧米(どこの国かわからないが)の旅行者と目が会うとニコッとされることがある。その際こちらは自然に「ハーイ」と言えるし、自然にほほえみがでる。
 こんな何気ない光景がチョッと気になるのは、日本で、こうしたことがありそうで、最近はないのではないかと思うからだが、どうだろう。コミュニケーションをとる難しさを、感じることがある。
 旅行中でも、辺境の地ならともかく、ヨーロッパのように日本人が多いところでは、日本人同志だと、微妙な緊張感がある。声をかけたら迷惑かなと思い、無視する形になってしまい、気持ちいいものではない。ハーイでいいのだけど。
 またロンドンの『ユーロタワー』に帰って来た。チョットなさけない。安くなっていてひとり1週間約14000円だった。学生は姿を消し、旧東欧系やスペイン系と思われる人が多くなって、意外にも混んでいた。そして、朝になると、新聞の求人欄に目を通す人が増えていた。

 

○商品

 いい自然食品店を見つけた。『バンブルビー』はとても野菜が多く、肉がない、きっとしっかりしたポリシーがあるのだろう。日本食の充実振りには驚く、ほとんどの基本調味料を揃えていた。こういう店を見ると元気がでる。ジャパンセンター内にある『ナチュラルハウス』に見せたいほど。
 イギリスでは援助団体というのか『オックスファム』のお店などが目につく。活動部門のひとつにお店があり、古着やフェアートレード商品などを扱っていてすっかり町に定着している。
 ロンドンのキャンペーン事務所を訪ねてみた。エジュケーションルームは夥しい資料の山で、それがきちんと整理され、教員などがよく調べ物に利用しているという。70ヶ国を越える援助国の資料がここに整理され、誰もが見ることができる。過去のものではなく現在進行形の「世界」がここにあるのだから、教員にとっても利用価値は大きそうだ。
 でも、会員や利用者への協力を求めるあまり「アジアなどの第三世界とは貧しい国」といった宣伝には注意が必要と思う。
 飢えや貧困からの脱出のため、援助や自立への協力は必要だが、目指すはやはり対等な関係作りではないかと思うからだ。「先進」国に近づく事が豊かともいえないし、いつまでも「手を差しのべてやらねばならない貧しい国」では対等な関係は難しい。
 旅行をしていて、そこには異なる文化、違った時間の流れがあり、経済的豊かさでは説明の難しい魅力がある、と感じることがよくある。
 援助の対象国の豊かさを伝えるのは難しいことだと思うが、大切なことだと思う。
 オックスファムを利用しながら、援助や助け合い、自立への協力、フェアートレードなどに関心を持ちつつ、その国々について感心が広がっていって欲しいと思う。
 旅行をしていると輸入雑貨商に時々出会う。商品について、“品質の良さと安さ”を求めるのが一般的だが、アジア・アフリカ・中南米と共存して生きるとか、自立の手助けや援助の気持ちがあるとそうはいかない。商品の安全性は勿論、作る課程の労働条件、幼児労働の有無、人権、環境に対しての配慮、エネルギー浪費型かなど、多方面の視点が必要になってくる。そういうことを考えるのは経済的に豊かな国に住む者の責務かもしれない。

 フェアートレード商品にしても信頼性を高めるために、基準が求められる。オーガニック商品にしても安全性と安さに目を奪われていては危険と思う。
 大英博物館の近くにある『Word of Differennce』も環境と人権をテーマにしているこだわりのお店。商品の品ぞろえは“売れる物”より“売りたいもの”或は紹介すべきものを陳列しているとみた。こういう主張のあるお店こそ頑張ってもらいたいが、いざやるとなるとボクなら逃げ出すかも。

○注目されないアジア

 ロンドンからのメキシコ行き、一番安いルフトハンザで往復約72000円。次が約85000円。イスタンブールも聞いてみた、トルコ航空が往復約4万円。バンコックへは約8万円。あれやこれや聞いてみるが行き先が決まらない。ここは旅行代理店、値段を聞いてから行き先を決めようと入ったけれどやはり決まらない。他力本願すぎることぐらい分かっている。プラハ(往復約4万5千円)もケニア(往復約8万円)も聞いてみた。とどのつまりどこにでも行けるのだが、「どうしても行きたい」が出てこない。
 旅行に出発するとき一応の目的は決めて来た。今回のそれはヨーロッパ、そして最終は中米かアジアの好きな所へと思っていた。持っている航空チケットは、アウトがロンドン↓ソウルなので、このままアジアへ向かってもいいのだ。が、まだここから近い所を回ったほうがいいのでは、と思ったりして、グズグズしてしまう。
 そうこうする内に、翌日のソウルまでの予約を入れた。こういう時はどちらに行っても道は続くと、納得するようにしている。
 そして、西ヨーロッパ旅行を終えた。
 仕事を止めてまでここに来た意味はあったかどうかはわからない。でもヨーロッパの自然食品店をはじめ、社会、文化の空気は味わえたかな。
 調度、韓国大統領が日本を訪問するとかで、「空港規制はないの」と、大韓航空のロンドン事務所で聞いた。カウンターの女性は「私、イギリス人だから、知らな~い」もうひとりも「知らな~い」という。
 ボクだけがそう感じるのか、今回旅行した国では、あまり日本やアジアについて関心を持たれていない。一緒に旅行をしているハクが数十件の自然食品系のお店と話をして、日本の食材を売ってるにも関わらず、ほとんど日本のことを聞かれないし、それらを使った料理方法も聞かれない。関心がなければ質問もないというわけ。勿論、こちらからはいろんな質問があるのだが。
 旅行者同士においても「日本人は毎日寿司を食べているのか?」というドイツ人。「そのとうり、毎日食べている」と答えてやった。つまるところ経済以外には関心がないのかもしれない。もっとも日本は経済以外に何があるだろうか。
 国によっても印象は異なる。イタリアやスペインなどは、冷たい印象すらあったが、オランダやドイツは包容力というか異文化への好奇心とか寛容さなど、いい印象だった。でもどちらにしてもそんなに日本には関心がないように思う。
 目の前にはEU統合がある。同じ通貨を持ち、教育や歴史、文化などどうすれば相互理解が深まるのか、その大きな実験を前に、アジアもなにもないのかもしれない。