旅の訪問日記.1ベトナムbyハク

ベトナムで食べた

●豊かな風景

 ベトナムをバスで走っていると、農村が豊かだなあと思う。風景からの印象だが、3毛作できるという水田が大きく広がり、家の庭先にバナナ、ココナッツがなり、裏庭にマンゴーの大きな木がある。たんぼのあぜで魚をすくい、そのかたわらをあひるが通る。家の前では、収穫した米やトウモロコシを広げて乾燥させ、それをねらう鶏がうろうろ。
 さらにベトナムは海岸線が長いので、昔風の塩田をよく見かける。その塩が美味しい。日本のように工業化された塩とは違い、色もやや灰色がかった白で、しっとりしている。味もマイルドで、しょっぱくない。ベトナム料理に欠かせないヌクマム(魚醤油)の美味しさの秘密は、この塩にある。
 こういう風景をみていると、ベトナムが貧しい国(GNP等での話)とはとても思えない。米は世界第2の輸出国だし、小麦は輸入らしいが、それでも食糧の自給率は相当高いようにみえる。ただ南と北の差もあるようで、南のほうが気候も地形も、農業には適しているようだ。もっとも食べものがあるから、食糧が自給できるから、豊かな国と思っているのは私ぐらいで、当のベトナム人達はちょっと違うようだが。

 

●米のうどん

 米が沢山とれるからか、ベトナムの米製品は種類が多い。生春巻の皮もそうだし、麺も米からつくる。なかでも温かいうどんフォー(フォ~と語尾をあげると通じやすい)と、冷たいうどん、ブンチャーはよく食べた。
 フォーは、ポピュラーで、屋台からレストランまでどこにでもある麺だ。鶏肉のフォーガーと牛肉のフォーボーがあり、どんぶりに麺と肉とスープが入って運ばれてくるが、これだけではない。山盛りの野菜セットとレモン、チリペースト、などが一緒にでてくる。この野菜セットにはいろいろな種類がある。サニーレタスのような葉っぱもあるし、ハーブ類、ミントやドクダミ、その他名前の知らないものがどっさりついてくる。これらを適当にちぎっていれて、レモンをしぼり、あとは好きに味をつけて、それから食べる。

 麺はやわらかく、そうめんのようなかんじで、量もあまり多くはない。スープは透明で、けっこう甘い。この甘い味とふにゃふにゃの麺が私には合わず、やっぱりタイの麺のほうが美味しいなあと思ってしまう。山のような野菜も、麺の少なさを補うためじゃないかという人もいる。でも薬効のあるハーブ類を、普段から食事に取り入れて沢山食べるのは、とてもいいと思う。においの強さから、えっと思うようなドクダミもあうし、ミントもいける。
 冷たい麺ブンチャーは、つけ麺だ。皿に山盛りのブンという丸い麺と、やはり野菜の大盛り、それにつけ汁がでてくる。つけ汁のなかには、炭火であぶった豚肉や、肉団子が入っている。薬味はにんにくのすりおろしや、唐辛子。野菜を麺と一緒に食べる。ブンは歯応えもあり、つけ汁も甘いけれど肉のたれと思えば、けっこうあう。ベトナムの麺のなかでは、一番好きな麺だ。このフォーやブンチャー、一杯5~6000ドン(約50円)で、食べられる。

 

●コムチャイ

 ホーチミンの宿の近くに、お寺があり、その前にコムチャイ(精進料理)のレストランが何軒かあった。このあたりは欧米人も多いので、ベジタリアンレストランと、英語の看板もだしている。コムチャイ料理といってもメニューを見ると、普通のベトナム料理と同じような、炒めもの、和えもの、ごはんものが並ぶ。肉がないぶん豆腐やゆばなどで工夫し、味も甘味が少なくあっさりめで私には美味しかった。
 よく頼んだのが、豆腐を揚げて(いわゆる厚あげ)上にレモングラスと生姜とチリを炒めたぴりっと辛い薬味をのせたもの。レモングラスの酸味がきいている。その他、蓮の茎のサラダや、袋茸のスープ、焼きなすなど、野菜料理はいくらでも食べられるかんじ。ただしチャーハンはイマイチだった。野菜やベトナム料理のものは一皿5000~6000ドンでそんなに高くない。ただし欧米人がよく注文している、豆腐バーガーや、豆腐ラザーニャ、サラダなどはけっこうな値段のようだったけれど、これらは食べたことがない。

 


 

 

 旅の訪問日記.2ベトナムbyハク

 ベトナムで食べた

●バケットサンドイッチ

 ベトナムのガイドブック等に、必ず登場し、「おいしい」と書いてあるバケットサンドイッチ。確かに、町のあちこちにパン売りのおばさんが並び、竹であんだ篭にフランスのバケットの半分位の長さで、少し太めのパンを、ぎっしり入れて売っている。サンドイッチの屋台も沢山ある。あちこちで食べてみたが、おいしいと思うところは、案外と少ないことがわかった。
 まず、パンそのものがスカスカで、中がしっとりして食べ応えのあるものが少ない。格好はフランスパンでも、味はコッペパン風というのが多い。次に具だが、ほとんど肉の脂身ばかりというのもあり、これはバツ。そしてパンを七厘で温めてあるかないかも、大切だ。
 忘れられないのは、ニャチャンの宿の近くに、夕方でる屋台。ここのパンは大きくて、味がありおいしい。皮もぱりっとしていて、ちゃんと温めてある。中にはさむ具も、挽肉のそぼろ風やハムのようなもの、野菜もきゅうりや大根を用意してあり、たっぷりはさんでくれて一本2000ドン(約20円)、パンだけだと1000ドン。パンを切って、マーガリンを塗って、具をはしでつまんで均等に入れ、塩、胡椒、チリソースや、ヌクマムで味つけ。紙でくるくると巻いて、手渡してくれるまでの手際のいいことったら、ほれぼれしてしまう。さっそく大きな口をあけて、かぶりつく。何度食べても、「美味しいなあ」と思う。ボリュームがあるので、これで充分夕食になる。
 もう一軒は朝しかない、ホイアンの屋台。ここでは肉の入った普通のが2000ドン、クリーミーな三角チーズと野菜のが3000ドンで、私はこのチーズ入りが好きだった。パンはニャチャンのに比べると小さくて、しっとり感が少ないがまあまあ。ここでサンドイッチを買って、斜め前にある小さな公園の野外カフェに行く。木の下の椅子に座り、大きめのグラス入りのコーヒーと一緒に食べる。ここでゆっくり過ごした朝の時間も、忘れられない。
 パンは、南のほうがおいしいような気がした。好きな屋台が見つかると、毎日通ってしまう。やっているのはたいてい女性で、2回目に行くと、野菜をたくさん入れてとか、肉の脂身は入れないでといった、こちらの好みを覚えていてくれて、ささっと作ってくれる。片言で、おはようとか元気?とか、美味しいとかいうと、にこっと笑う。こういうちょっとした知り合いができると、その町への親しみが増していく。

 

●欲しいものがたくさん

 長期旅行の途中で、欲しいものを見つけると、くやしい。このまま帰るのなら、買えるのになあと思う。もちろん送ることもできるが、ワレモノは難しいし、小包みを作って出すのは、以外と面倒なものだ。それでもタイや中国は、箱も売っているし手続きもわりと簡単だが、ベトナムは小包み専用の郵便局を見にいったところ、すごく複雑そうだったので今回は断念した。
 けれど欲しいものがみつかる旅は、楽しい。高価なものには縁もないし、お土産品にもあまり興味はないけれど、人々が毎日使っているようなものには惹かれる。ベトナムでおかしかったのは、ノンラーというすげ笠。はじめはあんなもの欲しくないと思っていたのに、まわりのベトナム人がかぶっていて、日除けにも、雨除けにも便利なのを見ているうちに、段々欲しくなってきた。次に行くことがあったら、ついたらすぐに買うつもり。

 毎日のものといえばアルミやステンレスのコーヒーフィルターもベトナム特有なものだ。フィルターにコーヒーの粉をセットし、カップの上に直接のせて使う。これを使って美味しいのは、深い焙煎の濃く苦味の強いコーヒーだと思う。構造上、粉が下に落ちどろどろになるとか、入れ終わるまでに時間がかかり過ぎてさめてしまうとか、そういうことを気にする人には向かない。日本で使ってフィットするかはわからないが、コーヒーの味よりも、これを使うことで蘇るベトナムの空気の方が楽しいかもしれない。
 自然の素材で編んだ、やわらかそうなホーキも各種あってきれいだ。同じようなホーキは東南アジアの他の国でも見るが、ベトナムの人は手先が器用なのか束ね方が丁寧なような気がする。
 特産の漆塗りの重箱や、お皿も素敵だけど、こういうものは普段は使わないのがわかっているので、お店で見て楽しむだけにする。でも木製にラッカーをかけただけの皿やボールがあり、こちらは是非欲しい。直径20cm以上はあるプレートが、表示価格で一枚2ドル(240円)だった。サイズを違えて枚数を揃えると、朝食や、アウトドア、オープンエアでの食事に似合いそうだ。
 ハノイの近くで焼いているバッチャン焼き。白地に青の模様の皿にも惹かれる。普段づかいできそうな、直径13cm位の皿や小皿、ごはん茶碗、そば緒口になりそうなものなど、市場で無造作に束ねられて売られているのがいい。魚や花、アンティーク風と模様もいろいろある。外国人への言い値はお皿で一枚2ドル、茶碗で1ドル位だ。
 この国でも、自然素材のものや陶器などの昔からのものより、カラフルなプラスチック製品のほうが人気があるようだ。やがては日本と同じように、大量消費、大量廃棄への道を進むのだろうか。

 


 


 
旅の訪問日記.3ベトナムbyハク

●アオザイとパジャマ

 ベトナム女性の、伝統衣装“アオザイ”は、上半身はぴったり体を覆い、、脇から裾までの長いスリットが特長だ。ホーチミンで女子学生が、制服の白いアオザイの後ろのすそをたくしあげてパンツにはさみ、ぴんと背筋を伸ばして自転車をこぐ姿を見かけると、ついカメラをむけてしまう。
 でもこのアオザイ、パンツはゆったりしているものの、詰め襟の首や、腕を先までおおう長袖は、蒸し暑いこの国にはあわないような気がする。おまけにしなやかさをだすため、生地はポリエステル製が多いときくとますます暑そうだ。ホイアンのホテルのアテンダンスの女性に、聞いてみると「暑いから好きじゃないの」という。それに「パンツの裾が長いので、歩くときや階段を昇るときは気をつけないと裾をふんづけてしまうので、面倒」とも。
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 学校の制服や、仕事場の制服としてアオザイを着ている人は多いものの、普段の生活で着ている人はあまり見かけない。で普通の人、市場や食堂で働く女性はというと、なんとパジャマを着ている。綿のゆったりしたシャツとパンツは、風も入るし、動きやすいし理にかなっているとは思うのだが、どう見てもパジャマ。ピンクでフリフリの袖がついていたりすると、よけいパジャマっぽい。もちろん彼女達はパジャマとは思っていないだろうが、アオザイかパジャマか、随分両極端な選択だ。
 ベトナムで日本語教師をしているという女性が、「ベトナムでは先生という職業は、尊敬されているんだけど、貧乏ということになっているようで、一年の終りによくお礼としてアオザイを作る生地をもらうんですよ」
と言っていた。でも彼女も
「アオザイはきついし暑いし、太ると着られないし、だいたいそんなに何枚も持っていても着ていくところがないじゃない。だから貰うんならパジャマのほうがいいっていうんだけど、ああいうものは先生が着てはいけないって言われるんですよ」
 最近の新聞記事に、ベトナム航空がスチュワーデスのアオザイの制服をやめると書いてあった。活動的でないという理由らしいが、もっともだと思う。アオザイはこれからも正装としては残っていくだろうが、日常生活からはだんだん消えていく気がする。その場合、選択肢がパジャマ以外にも増えることを、願いたい。

●ベトナムの人って

 ホーチミンやハノイ以外の町で、ツーリストカフェの前を通るときは、要注意。何がって、呼び込みの強烈さに。とくにニャチャンとフエでは。ずーっと遠くを歩いているツーリストを目ざとく見つけるや、何人もの女性が一斉に手をふり、呼びかける。日本人と見るや、「いらっしゃいませ、ど~ぞ」とくる。
 困るのはこういうカフェが何軒も隣りあって並んでいて、それぞれが熾烈な競争をやっていることだ。うっかりそのうちの一軒に入ると、隣との違いを強調され、サービスにバナナをくれたりして、次も必ずうちに来てねと念を押される。後日、前をとおりかかるや「昨日の店はうちよ~。間違えないで!」と言われる。名前なんか教えようものなら、道の反対側からも「ヒロコサ~ン、元気ですか。来てくれないと泣いちゃうから」と大声で叫ばれる。今まで旅行した国で、こんなすごい呼び込みにあったことはなく、この商魂のたくましさが、ベトナム人なんだろうか。

●プライバシー

 ヨーロッパを旅行していたとき、お互い自己紹介はするけれど、それ以上のことを聞かれたり、聞いたりすることは余りなかった。だからと言って話をしないわけでは、勿論ない。けれど個人的なことは、かなり親しくならなければ、聞かれない。
 それがベトナムに来てちょっと驚いた。カフェでも、店でも、会ったばかりの人にも質問ぜめ。「名前は?どこから?」ぐらいは普通として、「年はいくつ?」それから「子供はいるのか、2人は結婚しているの?」結婚はしていないというと、きまって「うふふふ」と笑い、「何で?」とくる。
 さらに「仕事は何か?収入はいくらか?」と続く。収入などの答え方は難しい。ただ何ドルというだけでは、いたずらに日本人て金持ちと思われるだけなので、収入はいくらだけど、日本では家賃がこれぐらいかかり、うどん一杯もこんなにするということもなるべく一緒に伝える。
 こういう質問の数々を、うるさいと思うかフレンドリーと思うか。そういえば、外国人の日本語弁論大会で、普段はシャイな日本人が、プライベートなことは平気で聞いてくる、恋人はいるのか、結婚しているのか、子供はまだか等、彼らの常識の範囲では考えられないようなことを聞いてくるので驚く、というような発表がいつもひとつはある。その気持ちもわかる。私もそういうことを聞かれるのは、日本にいても苦手だ。日本人もベトナム人も、大きくいってアジア人にとっては、プライバシーという言葉は、余り意味をもたないのかもしれない。
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旅の訪問日記.4中国・雲南byハク

中国・雲南で食べた
●朝食

 ベトナムからくると、朝食ががらっと変わる。フランスパンとコーヒーから、お粥、油条(ヨーティアオ)と豆乳へ。ヨーティアオは、油で揚げた細長いパンのようなものだが、これをお粥や豆乳と一緒に食べる。以前(92年)に中国を旅した時は、配給の券でヨーティアオと替えているのを見たが、今回は見かけなかった。
 豆乳は甘いのと、塩味のがあり、どちらを頼んでも温かい豆乳がどんぶり一杯くる。甘い方は、本当にあま~いんだけど、日本の調整豆乳とは違って味も濃い。ヨーティアオ2本と豆乳1杯で2元(30円)しないぐらい。
 ところが、私は米より麦のほうが好きなので、中国の朝食はちょっと辛い。お粥も一回位ならいいが、毎日は欲しくない。ヨーティアオも、店で使う油にあたることが時々あるし、もともとけっこう油っぽい。で、そんな私にぴったりの朝食は“花巻き”だ。
 花巻きは肉まんの中身がないやつだが、型はバターロールのようにくるっと巻いてあるのが多く、大きさも大人の握りこぶしぐらい。朝起きて、店先にアルミのせいろを幾段も積み上げ、威勢よく湯気が上がっている、饅頭&包子の専門の店や市場の中の専門店に買いに行く。これが楽しみ。プレーン以外にも、とうもろこし粉入りの黄色いもの、黒砂糖入り、カレースパイス入り(これはちょっと…)なんていうのもある。もちろん肉入り、野菜入り、あん入りの包子もあるが、朝食にはほんのり甘くて、ふわっとしたプレーンのが一番美味しい。蒸したての花巻、2個買って1元(15円)ほど。

 さてこれをどこで食べるか。近くに気楽な茶屋や、ツーリストカフェがあれば、そこで飲みものを注文して、食べることもあるし、宿に帰って食べることもある。中国では、安い宿でも魔法瓶のお湯があり、いつでもお茶を飲めるので便利だ。歩いている間に、食べてしまうなんてことも、よくある。なんたって出来たてアツアツの花巻きは美味しい。
 できれば、コーヒーも飲みたい。でも、コーヒーはツーリストカフェ等ではメニューにあるが、インスタントか、雲南のコーヒー(濃くて苦い)で、けっこう高く、6元(90円)位するので、あまり頼まない。で、コーヒーを飲みたい時は宿でインスタントにする。これは日本の自動販売機のコーヒーと同じで、ミルクも砂糖も最初から入っている3in1というやつで、まるでおいしいくはないが、中国では有難い存在だ。

●ナシババ

 ナシ族が多く住む古い街、麗江。とくに車が入れないオールドタウンは、ぶらぶら歩くのが楽しい。黒瓦をのせた木造の家が軒を接して並び、細い石畳の道の脇を、小川位の水路が縦横に走る。その水で野菜を洗い、食器を洗い、洗濯をする人がいる。そんな世界遺産の街、麗江の名物のひとつが、ババ。あちこちで売っている。
 同じ宿に泊まっていたサチコさんは、宿の前のお店で売っているババが好きで、出発の日の朝まで買いに走っていた。そこのババはパイ皮の中に黒砂糖のみつがたっぷり入っているらしい。「うまいんだけど、一個2元は高い!」とブツブツ。そのわりに「人気があるから朝しかない。はやく行かないとなくなっちゃう」と、やっぱり朝から買いに行く。

 このババ、名物というわりに店によって全然違う。薄焼きのクレープに黒砂糖がかかっているのもあれば、油で揚げたパンケーキみたいなのもある。私が一番気に入ったのは、オールドタウンの中のカフェ、“MAMAFU'S”のナシババwithハニーというやつ。
 ここのババは、ホットケーキのようで、上にはちみつが沢山かかっている。けれどホットケーキのようにふわふわではなく、むしろどっしりしたパンといったかんじで、厚みもあり、一枚食べるとしっかりお腹にたまる。以前インドのダージリンで毎朝食べていたチベタンブレッドにとてもよく似ていて(このチベタンブレッドも行く先々で全く違う)懐かしい。ここはツーリストカフェなので、ちょっと高くて一枚5元。
 このカフェは、前を水が流れる気持ちのいいロケーションにあり、席は外のみ。麗江にいる間中、ほぼ毎日行って、お茶を飲んで、ババを食べて、手紙を書いたりしていたので、しまいにはカフェをやっているお母さんに、注文する前から「今日もババ?」と言われる始末。美味しいもののある、好きな店を見つけて通うのも、旅の楽しみのひとつ。

 


 

 


旅の訪問日記.5中国・雲南
byハク

●水餃子

 前にも書いたけれど、私は米より麦が好きだ。だから餃子も大好き。日本のやわらかいのと違って、厚くてぷりっとした中国の餃子の皮は、食べ応えがある。以前西安に行った時、有名な“餃子の宴”というのに行ってみた。そこでは20数種類の餃子が各2個づつ、次から次とでてくる。上品な一口サイズで、ほとんどが蒸し餃子。甘いお菓子のようなのもあった。手の込んだ芸術作品のような餃子もいいけれど、街なかの餃子屋で、ド~ンとでてくる山盛りの餃子を、お腹一杯食べる幸せのほうがあっているみたい。
 中国の餃子は水餃子が多い。鍋貼という焼き餃子もあるが、油が多く揚げ餃子に近い。あっさりと美味しいのは水餃子。昆明の餃子屋は種類が多く、野菜、肉入り、海産物入りとあったが、いつも韮入りのシンプルなやつを頼んでいた。20個で5元ぐらい。中国人は一人で20個食べているようだが、いくら私が餃子を好きでも、そこまでは食べられない。
 麗江でよく行っていた店は、行くとまずお茶をだしてくれる。これがけっこううれしい。中華鍋を火にかけ、水を入れ、餃子を茹で始める。その間にたれを小皿に作る。しょうゆベースのたれに、いろんな調味料を入れ、唐辛子の量を聞いてくれる。私は辛いのが好きなので多めに入れて貰う。きざんだパクチー(香菜)をいれて出来上がり。餃子のほうは時々水をたしたりして、何度も何度も様子を見ながら茹でている。よしとなればそれっとすくって、皿によそってくれる。
 皮が厚いのでべちょっとならず、つるつると入る。中身は少なめだけど、皮が大きくて、おいしいのがいい。唐辛子の辛さが食べるスピードを加速し、あっというまに終り。もう少し食べられそうだけど、それはまた明日の楽しみにとっておこう。

●市場を見る楽しみ

 どこの町に行っても、庶民の通う市場は楽しい。中国のマーケットは食材の豊富さからも、面白い発見があり、興味はつきない。昆明の安宿、昆湖飯店の近くには、大通りをはさんで両側に長く続くストリートマーケットがあり、散歩しながら見て歩く。道の両側には、食品や衣料、家庭用品を売る店がずらっと並んでいる。その前に、野菜、果物、乾物を売る小さな屋台がそれぞれ店をだしている。買物をする人、荷物を運ぶひと、商品満載のリヤカー、自転車、そして車と、その混乱ぶりを見ていると、アジアだなあと思う。ドイツの整然とした青空市とはまるで違う。
 豆腐屋でカビをはやした、豆腐を見つけた。カマンベールチーズのようだけど、どうやって食べるのだろう?乾物屋は、竹で編んだ篭やブリキの入れ物に、スパイスから豆類、中国人の好きな種類(ヒマワリ、かぼちゃ)ピーナッツまで幅広い品揃え。当たり前のように量り売りだ。近くに蜂の巣と、蜂の子だけを売っている店もある。そのとなりでは、女性が二人、イナゴの羽をむしっている。足元の篭にいろんな種類のきのこがあるところを見ると、田舎で取って自分で持ってきたのだろう。
 屋台の肉屋もたくさん並んでいる。スペインで見たのと似ている骨つきのハムが沢山売られている。許可証のようなものを貼りだしてあるところを見ると、店として認定されているらしい。生肉は、一頭を解体したのがわかる品ぞろえで、脂の多いところもあれば、赤身の肉、舌から足先まで全部ある。豚足がきれいに磨かれて、4本並んで置いてあると、ちょっとおかしい。もちろん冷蔵庫はなく、台の上に並べてあるだけだ。
 中国だけでなく、アジアのもっと暑い国でも、肉は冷蔵していないし、ハエがたかっていることもある。そういう光景を見て、不潔だ、信じられないという旅行者が多い。私もはじめは驚いたが、今は逆に、肉は本来冷蔵しなくても平気なんじゃないか、と思っている。どこか遠くで処理した肉を流通させるために、冷凍、冷蔵が必要なんじゃないかと。近くで屠殺したものを持ってきて、2日位のうちに売るのなら、冷蔵庫は必要ないのだろう。そして食べるほうも、いろいろなスパイスやハーブを使って、ちゃんと火を通して料理すれば、問題ないのではないか。余った肉も燻製にしたり、干し肉にしたり、伝統的な肉を食べる知恵があるかぎり、このままのスタイルでいいと思う。日本じゃ難しいだろうが。
 八百屋の前で、洗ってきちんと束ねてある葉もの、洗ってある大根などを見ると、葉っぱを束ねず、そのまま手で取って量り売りするヨーロッパの八百屋とは、ずいぶん違うなあと感じる。売るためにみばえをよくする、消費者もそういうものを求めるなど、日本と同じようなことが中国でもあるのかもしれない。一方で、野菜に求めるものの違いも感じる。新鮮さや豊富な種類、野菜を沢山食べる食のスタイルなど、アジアのほうが、野菜に関してはうるさいのだろう。
 写真を撮ったり、包子屋で買い食いしたり、黒米のおこわを味見したり、米のうどんミーセン(米線)を食べたり、おかずやを覗いたり、いつでも市場は楽しくて時間のたつのがはやい。そろそろ量り売りのカステラでも買って帰って、お茶にしようか。

 


 

 

旅の訪問日記.6中国・雲南byハク

●排毒美願

 旅の間の便秘はつらい。もちろん下痢も大変だが、基本的には悪いものを外にだそうとういう体の反応だから、しばらくじっとして梅肉エキスのお世話になっていれば大抵大丈夫。東洋医学の本を読むと、下痢より便秘のほうがずっと体に悪いと書いてある。日本では便秘には縁が無いのに、旅行中に移動が続いたり、食事に野菜が少なかったりすると、便秘になりやすく、不快な日が続く。


 中国でそんなすっきりしない日々を送っていたころ、町で“排毒美願”と大きく書いた看板を見つけた。通便排毒、降脂美願とか書いてある。単なる下剤かなと思ったが、美願というところが気になる。さっそく知り合いのスーピンに聞いてみると、すごく流行っていて、彼女のまわりの女性も何人も飲んでいるという。値段は中国にしては結構高いが、美顔にひかれるのだろうか。帰りに何軒かの薬局で聞いてみたらどこでにもあり、とりあえず一番安かった60粒、65元(約1000円)をひとつ買ってみた。
 中国語の説明書でわかるところを拾うと、人体内毒素堆積~侵害経絡~容顔衰老などと書いてあり、私が知っている便秘のこと、腸内の菌のバランスが崩れると便秘になり、それがもとで顔に吹き出物ができたり、皮膚があれたり、もっと進むとガンなどの病気につながるというのと大体一致している。成分を見ると、下剤の働きのある大黄もあるが、体を温める人参も何種類か入っている。それと便秘のときだけでなく、健康な人も一日一回又は二日に一回飲むと美顔にきくと書いてあるので、余りきつい薬じゃないだろうと思い、最低量を飲んでみることにする。
 結果はごく普通に毎朝トイレに行きたくなり、お腹が痛くなるとかいうこともなく、悩みはすっきり解消した。薬に依存するのはよくないので、何日かで飲むのをやめた。説明書を見ると高血圧、高血脂、肝硬化、糖尿、肥満にも効果があるように書いてある。ホントかなと思ったが、それだけ便秘は病気の素だともいえる。気をつけなくちゃ。

●ビン入りヨーグルト

 以前の旅行中に見つけたヨーグルト、今回もやっぱりあった。街角の食糧品店の店先に、日本のと同じ大きさの牛乳の小瓶が何本かあれば、それが目印。昆明では1本1.5元、田舎に行くと少し高い。冷蔵庫で冷えていることは余りなく、ちょっとぬるい。紙のふたにストローを突っ込んで、吸う。ストローで吸えるぐらいゆるめだが、甘味もほどほどで、結構気に入っている。あっというまに飲み終わるが、お腹のためにも毎日一本はいきたいものだ。
 瓶入りだけなくプラスチックカップのもある。こちらは冷凍でも売っていて、フローズンヨーグルトみたいだ。でもやっぱりあの牛乳瓶から、ストローで吸うのが好きだ。

●中国の一人っ子政策

 昆明で知り合ったスーピンは、末っ子で上に姉が3人、兄が1人いるという。
「中国って子供は一人じゃないの」と聞いてみると、「そう簡単ではない」という。
「都市と農村では違うし。私の出身のような農村ではね、家を継ぐっていうのが大切じゃない。だからどの家も男の子が欲しいわけよ。今ははじめの子が女の子だった時に限って、6年したらもう一人子供をつくっていいの」
どうやら農村では2人までは認められているらしい。
「都会では確かに難しいけど、農村では女の子だと親戚の家に預かってもらって、戸籍上は自分の子じゃないことにしたり、男の子が続いたら親類の養子にしておいて、ある程度大きくなったら自分の家に戻すとか、いろいろな抜け道があるのよ」
事情通のスーピン、さすがによく知っている。
「けどね、一番悲しいのは女だと、すべて親の言うままにしなきゃならいってことよ。私の姉3人はみんな母親の決めた人と結婚させられて、とっても不幸なの。一番上の姉さんの夫はすごい酒のみで、子供と彼女を残して死んじゃて、彼女は子供と夫の両親を一人で、畑仕事で支えているのよ。次の姉さんの夫はお坊っちゃんタイプでよさそうだっただけど、ギャンブルに狂って、今は家もなくして借金の山。3番めの姉さんはね、好きな人がいて、結婚の約束までしてたんだけど、母親が今の夫を養子にとって家を継がそうって決めたもんだから、別れさせられたの。その時は泣いて泣いて本当に可哀相だったわ」
駆け落ちとかはないのかと聞いたら
「駆け落ちなんかしようもんなら、彼女達も行くところがなくなっちゃうし、家の面目も丸つぶれで、村にいられなくなっちゃう」という。
「兄には本当にお金をかけて大学に行かせたのよ。今は昆明で働いているんだけど、都市生活がよくてこっちで結婚したし、もう田舎の家には帰らないっていうの。だから姉さんが養子をとったわけ。私は年の離れた末っ子で、私が育つ時には家にちょっと余裕ができたから学校に行かせてもらえたけど、上の3人の姉さんは一切学校教育を受けてないのよ。だからね、自分の名前すら書けないのよ」
男の子は大学に行かせ、女の子は自分の名前も書けないというその落差は凄すぎないか。
 最近中国系の女性が書いた自分の家族の歴史を、何冊か続けて読んだ。そのどれもが母親、継母との確執を描いていた。圧倒的な権力を持つ母親が家族に君臨するという物語は、スーピンの話そのものっていうかんじ。けれどその母親も自分の親に大切にされなかったとしたら、自らの子供を愛するのは難しいのかもしれないと思った。

 


 

 


旅の訪問日記.7ラオス
byハク

ラオス3点セット
 ラオスの食事は北部タイのと似ていると言われる。主食はもち米のおこわ、カオニャーオ。タイではソムタム、ラオスではタムソムという青いパパイアのサラダに、ガイヤーンという焼き鶏もタイと同じ。この3点の取り合わせは絶妙で、タイでもよく食べていた。

 

●もち米のおこわ

 とはいえやはり、同じではない。もち米はラオスのほうが、精米度が低く、味があってずっと美味しい。タイでは電気釜が普及しているが、ラオスではまだ薪や七厘等で蒸しあげている、その違いもありそうだ。蓋つきの篭に入ってでてくるもち米を、右手で少しとって軽くにぎって食べる。ごはんが好きではない私にも美味しくて、おかずの合間にちょこちょこ食べていると、山盛りのおこわがすぐになくなってしまう。もち米はお腹にずっしりたまるので、後で苦しくなる。
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●パパイアサラダ

 タムソムは、ラオスでは美味しいのと、イマイチのがあり、どちらかいうとタイのさっぱりしたサラダ風のほうが好きだ。千切りにした青いパパイア(果物ではなく完全に野菜の範疇)を、各種調味料と唐辛子、マナーオという柑橘の汁で和えたサラダのようなものだ。独特の型の壷に入れて、すりこぎでコツコツと突いて作るのはタイも同じ。調味料に魚類の発酵ペーストを使うが、これが多すぎると、私には香りも味も強烈すぎる。このスパイシーなサラダは、もち米との相性抜群で、辛ければ辛いほどごはんが進んでしまう。
 タムソムを注文するときに必ず言うのが、「ボーサイ、アジノモト(ペンヌア)」味の素は入れないでという意味だが、これを忘れると大匙でどっと入れられてしまう。一度麺を食べに行き言うのを忘れたら、でてきた麺はべたべたに甘い味の素の味。そして食べ終わってしばらくしたら顔が真っ赤になり、ほてりだしたのには驚いた。味の素は味覚を破壊するとは思っていたけれど、“中華料理症候群”(アメリカでは味の素摂取過多による症状として認知されている)を身をもって体験するとは。恐ろしいなあ。それにしても味の素は日本の恥だ。

 

●焼き鶏

 鶏のモモ肉にたれをつけて焼いたガイヤーン、これも大きく違う。タイの鶏肉は大きく、柔らかでそして安い、1本30バーツ(100円)ぐらいだ。ラオスの鶏肉は小さくて、堅くて、他のものに比べると随分と高い。けれどこれが美味しい。タイのはブロイラーだと思うが、ラオスのは、どうやらそのへんを歩きまわっている鶏らしい。何しろ固くて、骨をはずすのにも苦労するぐらいだが、味がぎゅっとつまっている。
 日本のブロイラーは、生まれた時から窓の無い薄暗い鶏小屋に、1坪あたり70羽も詰め込まれている。過密飼いのために、薬も多量に使う。こういう薬漬けの肉類を多食していると、人体内に特定の抗生物質への耐性ができてしまい、薬がきかなくなるときく。それに飼育期間を短くするために、2ヶ月で3kgまで太らせるというのだから、肉もぶよぶよして美味しくないわけだ。不安とひきかえに、値段は安いというわけ。
 ラオスではルアンパパンのような大きな町でも、路地にはヒヨコ連れの鶏がうろうろしていて、朝のコケコッコーがうるさくて、おちおち寝ていられない。こんな風に飼っている鶏を何かの時につぶして食べる。普段は食べられない、ハレの食べ物としての肉という食べ方が、体のためにも環境のためにも理想的だと思う。

 

●ルアンパパンの夕食

 メコン川の近くの通りに、夕方になるとお惣材を売る屋台がずらっと並ぶ。地元の人に混じって、バジェット旅行者達もいそいそと買物に行く。さらっとした汁もの、野菜の炒めもの、煮込み、厚あげ、漬物、魚や鶏の焼いたもの。もちろんごはんも売っている。
 ふつうのおかずは一人分1000キップ(約25円位)で、汁ものや、肉魚類は少し高い。ビニール袋というのが気になるが、頼むと手際よく袋に入れて、輪ゴムで口をしばり、手渡してくれる。安い、野菜が多いとなれば、あれもこれも試してみたくなる。これだけ種類があれば、全部制覇するのには2週間位はかかりそうだ。
 何人かの日本人を誘って買いに行き、私達の泊まっている宿でお皿を借りてポーチで一緒に食べるというのが、ルアンパパンの夕食パターンになった。何日か通うと美味しい店とイマイチの店がわかってくる。ごはんひとつでも、美味しいところは、はやくに売り切れてしまう。家で作って持ってきたというかんじの、家族経営の屋台が多く、売る方もなんとなくのんびりしている。ラオスのお惣材はベトナムのように甘くなく、かといって辛くもなく、野菜の味をひきたてる味であきない。日本にもこんな便利で美味しい屋台がほしいなあ。

 


 

 


旅の訪問日記.8ラオスbyハク

●エリさんの仕事場へ

 エリさんは国連のボランティアで、織物と染色を教えている。工房やショップもあるときき、訪ねてみた。
 山奥の村のムアンシンから来ると、ウドンサイは都会にみえた。町を歩いていると、UNのマークをつけた車が目立つ。ラオスのなかでも貧しい地域でかつ、不発弾が少ないからということで、ウドンサイと西南のサヤブリには国連のプロジェクトがとくに多いという。
 UNのトレーニングセンターには、織り機が4~5台並んでいて、何人かが布を制作中。手回しの機械で糸を紡いでいる人もいる。トレーニングセンターといっても、まるでどこかの家のようなのんびりした雰囲気で「Time is Money」と書いてある額が、この場の雰囲気から浮いていておかしい。国連ボランティアは「ラオス全体で40人ぐらいで、そのうち4人が日本人。JAICAの日本人は30人位いるわよ」
 国連のプロジェクトの目的は、「ひとつには、女性と少数民族の支援のため。もうひとつは環境保全型農業の推進でこれには焼き畑をやめることも含まれるの。私がいるこのウドンサイのトレーニングセンターは、女性と少数民族支援のプロジェクトを受け持っているの」
「スタッフは、私のほか、オランダ、フィリピン、バングラディッシュの人がいて全部で4人と、あとは地元のスタッフが30人位」
エリさんの専門は織物ときいたけれど、なぜ織物のプロジェクトなのかきいてみた。
「このあたりは、もともと綿の生産量が多いところなの。だからこれを生かそうってことがまずあるわね。それから農作業の合間に女性が織物をするっていう、機織りの伝統があるの。今も農家を見ると高床式の家が多いでしょう?あれは織り機を下に置くのに適しているのよ」
確かに村の家の前を通ると、織り機があるのをよく眼にする。それにラオスの女性は、ほとんどみんな織り布のスカートを履いている。これも少し前までは、自分で作っていたのだろう。
「そういう伝統的な織物の特長を生かしたもので、女性達の仕事を作りだしたいと思って。手紡ぎの布の風合いの良さとか、天然染料の色合いとかね」「でも昔のやり方だけでは、売るのは難しいでしょう。やっぱり品質の向上は課題よね。だからここのトレーニングセンターに、周りの農村から織りの研修にきてもらうの。模様がとんだらだめだとかね、糸の染め具合にむらがないようにとか。製品として売るにはそれなりの技術が必要だから。それともうひとつここの仕事で大切なのは、織りパターンの収集かな」
「織りパターンってデザインのこと」
「そう。地域ごとに伝統的なパターンがあるんだけど、大抵はそれしか知らないのでレパートリーが少ないのよ。ここでは広い地域のいろんなパターンを集めてコンピューターに入れて、新しいデザインにして提供しているの。新しいパターンってとっても大切なものでね、普通は織り手がお金を出して買うものなのよ」
服と同じように、デザイナーが大切っていうわけだ。できた製品は、
「今はまだ、市場の開拓中なの。この近くにショップを作ったのもそのひとつなのよ。ビエンチャンにもお店を出せたらいいと思うんだけど」
「海外のフェアトレード団体に卸すとかは考えてない?」
「マーケッティング担当は別にいるから、いろいろ考えていると思うんだけど、私はラオスの国内の需要が多くなるのが、一番いいと思うの。この前ビエンチャンの展示会に持っていったらとっても評判がよくって、よく売れたの。ここの人達はこんな手作りのものが、高い値段で売れるわけないって言うんだけど、ビエンチャンのお金持ちの人や、観光できているタイの人からみると、こういう手仕事のものって、すごく魅力があるのよね。そういうことがわかると、ここの人達の自信にもなるじゃない」
海外の援助団体に頼るのではなくて、地元の人に買ってもらうものを作ろうという考え方は、賛成だ。ラオスでも最近は化学染料の普及によって、草木染めの布は少なくなってきているようなので、今後そういうものの価値がきっと見直されてくると思う。手仕事のものって、長く使うほど愛着がでてくるよさがあるし。
ところで何年位ここで働くつもりなのか聞いてみると、
「プロジェクトの期間としては、あと4年あるの。それまでに私達スタッフがいなくなっても地元のスタッフだけで運営できるように、トレーニングしていかないと」
ラオスの人達が自立できて、はじめて完成というわけだ。
 話を聞いていたら、いい匂いがしてきた。奥のキッチンで食品加工プロジェクトが、バナナケーキを焼いている。
「食品加工はマーケットがある大きな町の近くの人に限られるけど、ケーキやパンを焼いて現金収入を得られるようになるといいと思って」とのこと。これも楽しそうだ。あとで町で売っていたこのケーキを買って食べてみた。ふわっとしているんだけど、バナナのおかげでしっとりパサつかず美味しかった。
 最後にショップと、染色の工房を見に行った。ショップには、織った布で作ったシャツやベストをはじめ、スリッパやポーチ等の小物、バックパックやトートバッグなどがあり、見ているとつい仕入れたら売れるかなあ等と考えてしまう。エリさんも履いているが、ラオスの女性の織り布のスカートはとても素敵だ。本来はオーダーメードでサイズをあわせて作るらしいが、これを幾つかのサイズで作ったらいいと思ったがどうだろう。
 染色工房には、草木染めのサンプルが壁に沢山貼ってあり、奥の釜で糸をぐつぐつ煮ていた。いつも同じ色を出すためにマニュアルを完成させることと、この辺りの人が染料として使っているもの以外でも、身近にあるもので使えるものはないか試行錯誤の最中だと言っていた。
 夜、エリさんとユウさんと一緒に食事をした。エリさんは海外協力隊で、タンザニアのザンジバルに居たと聞いて思わず「いいな~」私が行ってみたいと思っている場所のひとつだ。ラオスの前はユウさんの仕事でブータンにも住んでいたそうだ。ラオスはとても気に入っていて、契約が終わっても縁がきれないかもねと言う。日本でも織物の展示会をやりたいと言っていたが、実現するといいなあ。エリさんと旅の途中のいい出会い、に感謝。

 


 


旅の訪問日記.9 ラオス
byハク

●ラオスって


 今もラオスのことを思いだすと、なんだか楽しい気持ちになってくる。観光の有名なスポットもないし、海やビーチもなく、山また山の国。世界最貧国のひとつと言われるだけあって、電気が24時間きていないところもあるし、道路は悪い、移動手段もトラックやピックアップを改造したバス。だけど、旅行者がみんなとりこになるわけは?それはやっぱり人のよさと、手つかずの自然の美しさ。
 例えば食堂に入って注文する。でてくるのに結構時間がかかるけど、忘れているわけではなく、一生懸命作っているらしい。食べ終わってお金を払うだんになると、何を食べたのか本人に聞いてくる。隣のベトナムではこうはいかない。注文してでてくるのも早ければ、頼んでいないものも持ってくる。サービスかなと思うと、あとで請求されるので先にきかないといけない。請求書もしっかりチェックしないと、使っていないおしぼりとかお茶代とかがついていたりする。
 ラオスの人を見ていると、国を工業化しようとか、先進国に追い付け追い越せというような必死さが感じられず、はたから見ると貧しい暮らしも、なんだかこれで充分と思っているように見える。旅行者の身勝手といわれても仕方ないが、このまま余り大きく変わらないで欲しいなあと思う。けれど、難しいんだろうなあ。

●買物カゴ

 ラオスに来て、女性が持っている買物カゴがとても気にいってしまい、欲しくてたまらない。日本でいう荷造りテープを編んだような、カラフルなビニールのカゴ。大きさは、昔風の買物カゴを少し大きくした位。ストンとまっすぐたっているのではなく、側面に少しふくらみがあり、底には足もついている。持ち手には、ビニール管が通してある。
 気に入った理由のひとつは、多くの人が実際に使っていること。マーケットでの買物に、バスでの移動に、この色とりどりのカゴを持っている人が沢山いる。ということはきっと使い勝手がいいんだろう。
 もうひとつの理由は買って、すぐ使えるから。バスや列車で移動するとき、バックパックは鍵をかけて預ける。けれど移動の間に必要なこまごましたものは、結構ある。例えば水やお菓子、果物等の食料、歯ブラシやタオルも時には必要だし、本やガイドブックも欲しい。そういうものをひとまとめにして、持ち込むのにすごく便利そう。
 問題は素材がビニールだということ。塩化ビニール製品は廃棄するときに、燃やすとダイオキシンを発生させるし、リサイクルも難しい。う~ん。けれどビニールだから、丈夫だし、汚れてもタワシでガンガン洗うことができる。それにカラフルな色づかいも、ビニールならばこそ。捨てないで長く使えばいいじゃないかと決めて、買うことにした。
 ところがみんなが持っているわりには、売ってない。素材のテープは売っているのだが、カゴはない。ムアンシンでもウドンサイのマーケットでも見つけることができず、やっぱり自分で作るもので、売り物ではないのか、とちょっとがっかりした。その後、都会のルアンパパンに来てみたら、この編んだカゴを持っている人がほとんどいなくなり、スーパーの店内カゴのようなものが流行り。がっかりだなあと思っていたら、市場の雑貨屋の片隅に積んであるのを見つけた。
 青に赤、白、黄のアクセントが入っている。大きさもいいし、たっぷり入りそう。欲しい気持ちを押さえて、ポーカーフェイスをよそおい、「これいくら?」ときくと4500キップという。1ドルか安いなあと思たとたん、「4000でどう?」と言ってしまい、、あっさりOKされ「しまった!」後で宿の娘アンに聞いてみたら、はたして3000キップ位かなという。1000キップって25円位なのだけど、バケットサンドイッチを一本買っておつりがくる値段だ。買物をするときは、値段を調べてからとわかっているつもりだけど、欲しいものを目の前にするとつい甘くなってしまう。けどいいや、気に入っているんだものと思いなおす。
 おかげで旅行中も便利に使い、日本への飛行機にも持ち込み、帰ってきてからも買物に、車で出かけるときの荷物入れにと、便利に活躍している。買物に行った店でほめられると、「ラオスで買ったんです」と聞かれてもいないのにしゃべってしまう。どうも私は、安上がりの買い物で満足してしまうらしい。
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